英語のスペシャリスト 戸田奈津子インタビュー #03

〜仕事をしているときは幸せな時間 好きなものをみつけて〜

  • 【画像】戸田奈津子3

    写真:八幡雅治(VIRGIN)

 さまざまな職業がある中で、天職を見つけられている人はどれほどいるだろうか。映画の字幕翻訳の他に通訳者としても活躍している戸田奈津子氏は「この仕事を選んで本当に良かった」と語る。英語のスペシャリストであり、自身の努力で天職に就いた彼女に、英語を学ぶ上でのポイントと自分の好きなものを見つける秘訣を教えてもらった。

「映画と結婚した」というくらいに好きな仕事

――たくさんのハリウッドスターの通訳をして、印象に残っている方やエピソードは?
戸田あまりに多くて……。そうね、最近で言えば、ファン・サービス満点のトム・クルーズは大スターにも関わらず本当に気配りのできるステキな人。じつは毎年欠かさず私の誕生日には花を贈ってくださる。今年もいろんな種類の蘭づくしの大きな花束が届いて、感激しました。’14年に亡くなったロビン・ウィリアムズとも家族ぐるみで親しくさせていただいて、サンフランシスコで行われた「ロビンを偲ぶ会」にも列席させていただきました。彼の元夫人で『ミセス・ダウト』のプロデューサーでもあるマーシャ・ガーセスさんとは今でも親しくて、つい最近も、彼女が所有するイタリアの別荘に滞在してきました。フランシス・フォード・コッポラ監督の奥様とも仲良し。大監督を支えてきたエレノア夫人が、初めてノンフィクションの劇場映画の監督をした『ボンジュール、アン』を携えて6月に来日した時には通訳をさせていただいて、「ずっと毎年のように会っていたけど、お仕事したのは初めてね」、「こんな日が来るとはねぇ」と2人で笑ってしまいました。
――仕事を長年続けていらっしゃいますが、辞めたいと思ったことは?
戸田ないです。冗談半分で「映画と結婚した」と言うくらいに好きな仕事ですから。もちろん、「どうやって字幕にしようか?」と悩むこともありますが、それすら私には楽しい作業。私は、字幕翻訳の作業をしている時は、頭の中で映画の世界を生きています。セリフを訳しながら、まるで自分が俳優になったように、銃を撃ったり、空中を飛んだり、ステキな男性と恋をしている。悲しい映画の時は泣きながら、コメディの時はゲラゲラ笑って。ミュージカルを翻訳している時など、踊ってしまうこともありますよ。そうやって、幸せな時間に浸っていると、本当にこの仕事を選んで良かったと思わずにはいられません。

どんな学習法を選んだとしても、効果が出るかは自分次第

――初心者が英語を学ぶ時に、何から始めればいいと思いますか?
戸田いまは学ぶツールが豊富にあって、本当にうらやましいです。たとえば映画ひとつをとっても、お金と時間をかけて映画館に通っていた私の時代とは大違い。DVDを繰り返し見て、日本語字幕と英語字幕を比較することもできる。聞くだけでなく、目でも確かめられる。そうなれば分からない単語は辞書で引けばいいだけ。たとえば、ジョニー・デップが好きな人は、お気に入りのシーンを繰り返し見るのは苦にならないはず。そして、そのセリフを口にすれば、自然に英語表現が頭に入ります。
――映画以外で英語を学ぶとしたら?
戸田もちろん、音楽でもいいし、クルマでもスポーツでもお料理でも。いまや何だってネットにありますから。いろいろなサイトを見て、自分の好きな物に焦点を絞っていけばいいのです。好きなものを深く知りたいと思えば、ネット・サーフィンもするでしょう。そして、そこで必要になるのが英語。わからない単語を辞書で引いて文章を追っていくうちに、英語の構文も分かってくる。それの積み重ねですね。
――留学やオンラインの英会話などで学ぶのは?
戸田やる気があれば、もちろん効果があるでしょう。自分の気持ち次第です。留学しても、アメリカやイギリスの地を踏んだだけで英語が話せるようにはなりません。「現地の人としか付き合わない!」くらいの覚悟が必要だと思います。今は留学しなくても、オンラインでネイティブの英語が学べるなんて、ほんといい時代です。でも、これこそやる気と根気、そしてなぜ英語を学びたいのかというモチベーションが不可欠でしょうね。何しろ、さぼろうと思えば、いくらでもさぼれるのですから。

人の生きる道は、好きなものの中にある

――英語を学ぶ人にアドバイスは?
戸田「語学はあくまでもツール」ということです。いくら「ツール=道具」をうまく使えても、それで何を作るのかが問題です。大工道具がうまく使いこなせても、大事なのはその技で何を作るかです。言語は到達点ではありません。その“道具”を使って、多くの人とコミュニケーションをとったり、好きな職業につなげていくことが大切だと思います。最近はコンピューターがうまい英文を作る時代。脳を持つ人間は、脳や想像力を活かして、道具を駆使して、コンピューターにできないクリエイティブなことに挑戦して欲しいです。
――好きものが見つからない時は?
戸田「自分をちゃんと見つめ直せば、必ず好きなものがわかるはず」と言いたいですね。ここで、94年の大ヒット作『マスク』で披露した百面相が大受けしてスターの座についたコメディ俳優ジム・キャリーのエピソードを紹介しましょう。彼は子供の頃から「百面相」が大好きで、鏡に向かっていつも変な顔をしていたそうです。当然、両親は心配して「そんなバカなことをするのはやめなさい」と言いましたが、ジムは聞く耳持たず。そうするうちに、両親も「息子はそれが好きなんだ」と理解して、その後は「面白いよ」と褒めるようになりました。すると、ジムは芸に磨きをかけて、ついにハリウッドのトップ・スターになったのです。ジム自身はこう結論付けています。「人の才能は、親が心配するようなことの中にあるのかもしれない」。説得力があるでしょ? 私は、「人の生きる道は、好きなものの中にある」ということを伝えたい時には、ジムのこのエピソードを引用させてもらっています。
戸田奈津子
東京都出身。津田塾大学英文科卒。大学在学中に字幕翻訳家を志すも門は狭く、生命保険会社の秘書や翻訳・通訳のアルバイトをしつつ翻訳家としての機会を待つ。その間、英米字幕翻訳の先駆者・清水俊二氏に師事。1970年公開の『野生の少年』でようやく本格的な作品の字幕翻訳を担当。さらに10年近い下積みを経て『地獄の黙示録』(1979年)の翻訳を手がけたのを機にプロとしての地位を確立。以来、現在に至るまで数多くの名作・大作の翻訳を担当、来日する映画人の通訳も依頼され、長年の友人も多い。
著書に『KEEP ON DREAMING 戸田奈津子』(字幕翻訳の第一人者が語る初の自伝ノンフィクション)、『ときめくフレーズ、きらめくシネマ』(100本の映画から100本のセリフをピックアップと戸田奈津子が語る、生きた英語の習得述)など。いずれも双葉社より発売中。
文/金子裕子 校閲/磯崎恵一

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