TOEIC指導者による「海外経験をTOEICスコアに活かす方法」
Vol.3:「英語の知識とコミュニケーションは別物」海外経験はスキルアップに有効か
ヒロ前田先生(以下、前田) 日本人が少ない地域で、経験を積みたかったからです。自分に約束していたのは、現地でのアルバイトで稼いだお金だけで生活すること。アルバイトは、ホテルのキッチンヘルプでした。ある日突然クビになって、次の職を得るまで貯金残高が数ドルになり、生活が逼迫したこともありました。
―――大変でしたね。
前田 ビクトリアは観光シーズンが過ぎると急激に失業率が高くなります。僕の最初のアルバイトもホテルのレストランだったので、「お客さんが減って売上が伸びないから、明日からこなくていい」と言われてしまいました。9月に働き始め、10月末に解雇。これが短期で滞在する自分だけに起こったことではなく、現地も同じ境遇だったことに衝撃を受けました。
―――その後の生活はどうしたのですか。
前田 日本であれば、求人誌から数件当たればその日のうちに採用が決まりますが、ここではそうはいかない。現地の人が同じように職を求めていますから。なので、広告を出していないところを70件くらい「I’m looking for a job. Do you have any openings?(仕事を探してます。空いてる職はありますか)」と聞いてまわりました。ようやく採用してくれたのは、季節に影響を受けない地元の人が集うパブ。職を得られたときのありがたみと喜びはひとしおでした。
帰国後のスコアは115点UP! でもその理由は…
―――ワーホリ前後でTOEICのスコアに変化はありましたか?
前田 海外に行って気づいたのは、TOEICに出てくるフレーズを使うシーンが結構あったこと。大学4年(ワーホリ前)のスコアは800点でしたが、帰国後に受けると915点でした。
―――すごいですね! ということは、ワーホリ経験はTOEICのスコアップに有効でしたか?
前田 それが、その115点アップのうち、105点を稼いだのはリーディングセクションだったんです。カナダ滞在中にたくさん読書をしたからか……。海外生活の中で、英語を聞くことは避けようがなく、毎日何時間も英語を耳にしましたが、リスニングでは10点アップ。私個人としては、海外に行けばそれだけでTOEICのスコアが大きく伸びるわけではないことを示していると思います。
大学時代は、2年半くらいESS(English Study Society)に所属して時事テーマを中心に英語のディベートに力をいれていました。言語よりも「思考」の訓練です。これが自分の力を大きく伸ばすきっかけになったと思います。その後、カナダに行ったので、会話に困ることはありませんでした。
―――英語のコミュインケーション力を高めるには思考の訓練が必要、ということですか。
前田 近年は、TOEICで800点を取る人は珍しくありませんが、取るまでのプロセスが人によって違います。英語力を上げたいのであれば、思考と発想を変えないといけません。
また、意見と事実を分離してとらえる力も大切です。この能力はTOEICでいうと、メールやチャットなど長文読解が求められるPart7に影響しがちです。ミスをする人の一定数は、自分の意見を入れて答えを考えてしまっている。その意見を排除するのもTOEICスコアをアップするには必要と言えます。
ヒロ前田(ひろ・まえだ)
TOEIC受験力UPトレーナー。神戸大学経営学部卒。大人のための勉強スペース「T’z英語ラウンジ」経営。2003年5月に講師として全国の企業・大学で指導を開始。2005年にはTOEICを教える指導者を養成する講座をスタートし、トレーナーを務めている。2008年グランドストリーム株式会社を設立。TOEICの受験回数は100回を超え、47都道府県で公開テストを受験する「全国制覇」を2017年5月に達成。取得スコアは15点から990点まで幅広い。著書に『TOEICテスト 究極の模試600問』(アルク)、『TOEICテスト900点。それでも英語が話せない人、話せる人』(KADOKAWA)、共著に『TOEICテスト 新形式問題やり込みドリル』(アルク)等がある。
■T’z(ティーズ)英語ラウンジ
住所:東京都世田谷区南烏山5-23-9 鶴間ビル2階
アクセス:京王線・千歳烏山駅から徒歩4分
http://tz-eigolounge.jp/
(文:柏野裕美)