【第1回】外国語接客サポートアプリで“おもてなし”英語を<前編>
英語学習アプリ『パロット』は、オウム返し(英語でパロット)のように音声を真似て発音練習ができる。ユニークなのが、カラオケの要素を組み込んだこと。テンポのいいリズムに合わせてフレーズの音声がループして流れ、そのループするリズムに乗って発音練習を繰り返す。アクセントの強弱が波形で表示され、その都度スコアが出る。上手に発音できると最後にはアプリが褒めてくれる。
アプリについてはもちろん、鈴木氏が提案している“活きた語学学習法”についても聞いた。
“楽しさが重要”、語学学習のキモは「ウケれば続く」
鈴木知行氏、以下鈴木楽しくないと学習は続きませんし、使い勝手が簡単で手軽だからといっても、毎日使うモチベーションにはつながりません。学んだ言葉を仕事で使い、お客さんがわかってくれて、日本人のお客さんと遜色ないほどの接客ができた経験を得られることが、こなすだけの無機質な学習を“楽しさ”へと変えます。
以前、ホテルスタッフになるための専門学校で、語学学習プログラムとして『パロット』のデモをしたところ、笑いで会場が沸いたんです。
「効率よく学べる」とか「簡単に使える」よりも、“ウケる”ほうが、語学学習を促せることが、そこでわかってきました。接客業に限らず仕事をしながら基礎から学ぶには、気力も時間も必要です。語学学習サービスが乱立する中、スマホアプリを立ち上げることすら面倒くさくなるような仕組みでは通用しません。
飲食、百貨店、ホテルなど接客が求められる“おもてなし”業界では、現場で働く社員さんの様子を観察しながら、即戦力になる学び方を研究しました。
――最初は面白くても、飽きがきたり、どんどん新しい英語学習サービスが出てきたり…ブームが来ては去っていきます。そんな中で、“ウケを狙う”理由も教えてください。
鈴木「ウケる」というのは、単に面白くして狙うだけではダメなんです。“投資と回収”の間が短いことを直感的にわかってもらう。これは言葉で説明するより、体験すればわかることです。仕事の前に『パロット』で、お決まりのセリフを英語や中国語でおさらいすれば、すぐ実践で使えます。
『パロット』という名前の由来は、“オウム返し”です。4拍子のリズムに合わせて、発音を聞こえた通りに繰り返します。表示される波形を見ながら発音すれば、強弱も身につけられます。
「効果測定のしにくさ」が語学学習を続かなくさせる
鈴木これって、カラオケで好きな曲を上手に歌えるまで練習する感覚と同じなんです。まずは“それっぽく”フレーズを言えるようになる。「ビートルズの歌が好きで英語が好きになる」という、何かを好きになる感性に働きかけているのと同じ。ごく自然に語学学習の壁を打ち砕く方法だと思います。
ダイエットであれば、夕食を抜けば翌日体重が減り、食べない努力が短期的でも実ることを体重計に乗れば確認できる。しかしながら英語は、今日学習したことが今日どれだけ上達したかが分かりません。わかるのは学習した量だけ。個人的には、これが今の英語学習の挑戦だと思います。
「今日学習したことを今日使える」そして「即、接客力につながる」。ここに重きを置き、さらには、続けて欲しいから“ウケ”を狙いました。
「少々お待ちください」など何気ないひと言で外国人客の満足度も上昇
鈴木居酒屋であれば、お客様が来店したときに、お茶を出したりメニューを渡したりといったお決まりの行動があります。そういったシーン別にセリフをグループ分けして学べるようにしています。“Here is the instructions how to access our Wi-Fi network.(Wi-Fi使えますよ)” や“Please wait for a moment.(少々お待ちください)”など、何気ないひと言だけで、満足度がグンと上がったりします。
あとは習慣や文化の違いを受け入れてもらうよう“Please do not smoke while walking in this area.(歩きタバコはご遠慮ください)”や“Could you please speak a bit more quietly?(もう少し小さな声でお話しいただいけますでしょうか)”などと、お願いする必要があるお店も地域によっては少なくありません。
日本は地震大国ですから、地震が発生して不安になっている外国人観光客に“To ensure your safety, please follow our instructions.(安全のため私たちの指示に従ってください)”や“Please don't worry. It's safe now.(安全ですから心配なさらないでください)”というフレーズもいざという時に役立ちます。
使わないセリフが入っていると、学習する意欲がガタ落ちします。それこそ「ありがとうございました」もお店によって表現が違う。そのお店独特の表現をそのまま英語で学べるようにしておかないと使い続けてもらえません。現場の方に日本語のセリフを入力してもらって、外国語で学んでもらうことが、お店としての“接客力が向上する秘訣”とも言えます。
(取材・文/柏野裕美)