【第1回】外国語接客サポートアプリで“おもてなし”英語を<後編>
外国語接客サポートアプリ『パロット』を使い、語学学習を“楽しく続けさせてくれる秘密”を伺った<前編>。今回はアプリを接客に活用した事例と、外国人観光客とのコミュニケーション術について、鈴木氏に聞いた。
東京五輪に向けて…“インバウンド接客”が顧客満足度につながる
鈴木知行氏(以下、鈴木) 東京五輪に向け、外国人客が増えているニュースはよく聞きます。それに伴ってこのアプリへの引き合いも増えていますね。逆に五輪がなかったら、今ほど外国人観光客に対する接客に本腰を入れる企業もなかったと思うので、いい時期にサービスを立ち上げることができました。
ただ、五輪を商機と睨んだというよりも、私自身が海外旅行好きだったことが、このアプリを提供するきっかけでした。
私がこれまで海外旅行に行って、満足度が低かったことは今のところありません。異文化を感じるだけでも満足度が上がりますし。「海外を楽しむ自分」がいる一方で、初めて日本に来る外国人はどう思うのだろうか、と改めて考えてみた時、どことなく「残念な気持ち」が生まれたんです。
それは、島国気質が根付いているのか、私たち日本人には“外国人を受け入れるマインドセット”が弱いように思えたからだと思います。
翻訳機にできない「接客」が顧客満足度を上げる
「日本人は日本人相手だけの商売が成立する期間があまりにも長すぎた。経済がここまで発展した後に、外国人相手に観光ビジネスを初めてスタートする国は世界の歴史の中でも珍しい。」
この本を読んで、グローバル社会だと言いながらも、気持ちの上では“鎖国”が続いていたのかなと思わざるを得ませんでした。
否定をするわけではありませんが、初めて訪れる国で、いきなり翻訳機に対応されて顧客満足度があがるでしょうか。時代の流れで生活のあらゆるところでIT化による恩恵は受けていますが、「人」が対応すべき領域はまだまだたくさんあります。「接客」はまさにそのひとつなんです。
翻訳機を使うにしても、決まり文句くらいは自分の声で言わないと、お客様に接客する気がないと思われても仕方がありません。
そこに大きな問題を感じたことが、『パロット』をソリューションとして作り上げた最初の理由です。その時期がたまたまオリンピックと重なったというわけです。
SNSで広がる“流行の逆輸入”をチャンスに変えて
鈴木例えば、山口県・萩市では、車夫が時代を匂わせる衣装をまとい、人力車で名所を案内してくれます。観光客もフォトスポットがあれば写真を撮りたい。昔気質な人力車のお兄さんから「ここで写真を撮りましょう」とか「一緒に撮りましょう」と言われて、喜ばない人はほとんどいません。これは日本人客であっても同じことです。あまり難しく考えず、一言声をかけるだけで、萩市での体験がSNSで共有したくなる“日本での思い出のひとつ”になる。
広告で客寄せすることはできても、広告は接客ではありません。観光客が一歩足を踏み入れた先は、その場所ならではの体験や素晴らしい思い出が得られるかどうかが肝心。客足を増やすことだけにとらわれず、“体験の質”を上げていくことが、サステイナブルな観光へつながるコツです。
鈴木思い出を形に残すには、「写真」はひとつの手段ですし、SNSで共有してもらいやすくなります。レストランの口コミで強力なのは「美味しかった」よりも「フレンドリー」。海外旅行中の食事の回数は限られていますから、美味しいことも大事ですが、いい経験ができることも評判に大きく影響します。
訪れた街で「地元の人に人気の店」を知りたいと思っている旅行者は多いのですが、 地元民が書いたレビューを見る手段が限られています。結局はSNSで同胞のレビューを参考にしている。地元民と訪問者の目線で描かれるレビューは、それぞれに異なる役立ち方があるのだと思います。
鈴木要は、“口コミをどう醸成できるか”なんです。例えば、日本人にとって海外旅行先の代表格といえばおそらく、ハワイ。ハワイの中でも少し車に乗って行けば素敵なところは他にもあるのに、日本人はカラカウア通りに集まる。同じ国の人同士の口コミの、圧倒的な強さを物語っていると思います。
もちろん欧米人の意見も参考になりますが、サービスに対する理解のレベルも、重視するポイントも違います。日本人は日本人が心地よかったという場所に行ったほうが、いい思い出ができる可能性は高い。
日本には、海外旅行や海外で一定期間生活する経験を持った人はあまり多くありません。文化が違うことくらいはわかっていても、身を持って経験する機会には恵まれていません。“郷に入れば郷に従え”という言葉があるように、外国人観光客へも日本人と同じように対応することが、彼らにとっての異文化体験になる。それに加えて、積極的に写真を撮ってあげるといった対応が観光客にとっては最高かつ今どきの“おもてなし”と言えます。
(取材・文/柏野裕美)