2018年03月31日 08時40分

オスカー受賞の辻一弘、高校卒で渡米の裏に強い自立心「集団生活が苦手だった」

『第90回アカデミー賞』メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞した辻一弘氏 (C)oricon ME inc. [拡大する]

『第90回アカデミー賞』メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞した辻一弘氏 (C)oricon ME inc.

 『第90回アカデミー賞』で、日本人初のメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞した辻一弘氏。映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(3/30公開)では、主演のゲイリー・オールドマンを元英国首相のチャーチルに見事に変貌させている。京都に生まれ、単身渡米した辻氏は、20年以上ハリウッドで活躍。高い評価を得ながらも、現在はアートの世界に転身している。その裏側には、若いころからの「アウトサイダー」気質と、「自分のやりたいこと」を追求する強い意思があった。

◆学生時代に特殊メイクの巨匠と文通、卒業後に現場に飛び込む

 辻氏が特殊メイクの業界に興味を持ったのは、京都で暮らしていた10代の頃。アメリカの雑誌で、特殊メイクの大御所ディック・スミスの手がけた仕事を見たからだ。手紙か電話でしかコンタクトをとる手段がなかった当時、学生だった辻氏はスミス氏に直接手紙を送り、コネクションを築いた。とはいえ、「当時は全然英語ができなかったので、担任の英語教師に手紙を添削してもらった」のだという。

 そんな手紙でのやりとりを繰り返すうち、映画『スウィート・ホーム』の仕事でスミス氏が来日。ついに初対面を果たした辻氏は、高校卒業時にすぐにこの現場入りを経験。その後しばらくは日本での仕事に就いていたが、一念発起して渡米を決意した。

 「アメリカ行きを決めたのは、やはり日本にいては自分のやりたい方法で特殊メイクをできなかったから。もちろん英語はまだまだの状態でしたけどね。『スウィート・ホーム』の現場でもそうだったんですが、一度日本語で文章を考えてから英語に翻訳するのではなく、最初から英語でものを考えて発言するようになってからは、スッと出てくるようになりました」

◆アウトサイダーだとしても、「自分を信じるしかない」

 苦手だった英語が不可欠の仕事を選び、渡米する。これを高校卒業時に決断した行動力、我が道をゆく思いの強さには舌を巻く。だが、そこには、辻氏ならではのある理由もあった。

 「卒業後に美術大学を薦められましたが、進学しなかったのには2つ理由があります。1つは、集団生活が苦手ということ。そしてもう1つが、学校は学ぶところではないということがわかっていたから。集団生活が苦手なのに、わざわざまた大学という集団に入ることは選びませんでしたし、自分の目標である仕事に一刻も早く近づけるような道を選んだんです。だけどそれは、“集団”側から見たらアウトサイダーですし、その自覚はあります。でも、やりたいことが決まっている自分を信じるしかない。自分の存在証明こそが、仕事への原動力になりました」

 こうしてハリウッドの世界に飛び込んだ辻氏は、特殊メイクアップアーティストとして活躍。『メン・イン・ブラック』、『猿の惑星』などの大作を手がけ、ハリウッドで22年以上もの長きにわたり映画の仕事に携わった。

 「ハリウッドは良い部分も悪い部分もあり、僕自身も複雑な思いがありますが、映画の仕事をするなら経験しておくべき場所。いろんな人が様々な注文をしてくるので、自分を殺さずに表現することが大事だと思っていました。僕は一度その場を離れたことも、良かったのだと思います」

◆結果が出てから評価する日本、「外に出ないのはもったいない」

 そんな辻氏に、新たな転機が訪れたのは2012年。ハリウッドで得た評価をよそに、孤軍奮闘の現代アートの道を選んだ。学生時代から変わらず、「大勢の人たちに囲まれて仕事することが苦手」という理由もあるが、その決断の裏には、「自分が本当にやりたいことするために」という強固な信念があった。

 「今回の受賞もそうですが(笑)、日本はとかく結果が出てから評価するというのが常ですよね。でも、評価が出るのを待っていては、自分が本当にやりたいことはできませんし、うまくいくわけがないんです。ただ、日本は、日本で生まれた日本人にとってはとても居心地のいい、温室のような国。外国に出てまで仕事をするのは、ためらってしまう若い人が多いのも理解はできます。海外に出ることが正解だとは言いませんが、これだけ開かれた世界になっているのに外に出ないのはもったいないことでもあると思うんです」

◆「2020年頃に東京で個展をやりたい」、今後もアートをメインに

 今回の受賞をきっかけに、さらに多くの仕事が舞い込んでいるようだが、「これからもアートの仕事をメインにやっていきたい」という。

 「オスカーをいただいても、僕がやりたいことは変わりません。ただ、アートの仕事はお金も時間もかかるんですよ。なので、これからはやりたいと思える映画の仕事があればやらせていただき、アートの運転資金にも回していきたい。すごくいい環境ができたと思っています」

 自分のやりたいことを追求し、結果的に最高の評価と環境を得た辻氏。現在は、「2020年頃に東京で個展をやりたい」と考え、準備に忙殺されているという。彼の強い意志から生まれる作品、そして今後の動向に期待したい。
(文:よしひろまさみち)

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