2012年06月14日 10時00分

海外留学生が増えている2つの理由

 「2012年1月に文部科学省が発表した最新の統計によると、2009年に海外留学した日本人学生は5万9923人で前年より10.3%減っており、2004年の8万2945人をピークに留学生の数は減少傾向が続いています。2010年以降の公式なデータはありませんが、昨年あたりからその数が増加に転じたという情報をいたるところで耳にします。当社に限って言えば、対前年比で数倍程度の伸び率です」。こう語るのは、海外留学を支援する学習塾の全国ネットワーク「ISC留学net」の大場規之代表だ。

 これまでは不況による金銭的な問題や、就職活動の早期化など国内の学生が留学しにくい状況にあった。しかし、「グローバル人材の確保」「円高」という2つの社会的背景が留学を取り巻く環境を変え、海外へ行く学生が増加傾向にあるという。その理由を、掘り下げてみていく。

■1.「グローバル人材」の採用が活性化

 国内市場の縮小化や円高により、企業のグローバル展開が加速している。それに伴い、語学力や高いコミュニケーション能力を身につけた留学経験者(=グローバル人材)の採用が活性化し始めてきた。

 「内向き志向」といわれてきた学生も、企業のグローバル化の流れを汲み取り留学を希望する傾向が強まっている。春の一括採用が中心だった数年前は、留学は就職に不利といわれていた。しかし、グローバル人材の確保が急務とされる昨今、留学を終えて秋頃に帰国した学生もチャレンジできるようにと、企業の採用体制は変化しつつある。ユニクロ(ファーストリテイリング)や日産自動車など夏、秋を含め通年採用を行う企業が増えてきた。こうした就職活動に影響しない採用体制の変化が、留学生を増やすきっかけとなっているようだ。

 また、大学側にも変化が現れ始めてきた。学生の海外留学を促進するために、東大が5年後をめどに秋入学への全面移行をめざすと発表。5月22日には教育改革を本格的に議論するための検討会議を設置した。国際標準となっている秋入学へ移行することで、海外留学生を増やしグローバル人材を育成することが狙いとしている。他の主要大学とも協議を進めており、大学の秋入学が本格化し海外留学生が増加傾向になった場合には、それに合わせて通年採用を行う企業も増えると考えられる。

■2.円高が留学を後押し

 海外留学はお金がかかるのでは? そう思われがちだが、最近は円高が追い風となって、留学しやすい環境になっている。

 地方の学生が一人暮らしをしながら都内の大学に通うと、私立の場合、年間200〜250万円かかるといわれている。一方、アメリカの州立大学のなかにはレートの関係で、授業料と1日2食付きのホームステイ費をあわせても、年間130万円程度で済むケースもあるという(夏休みなどの長期休暇にかかる費用は含まない)。国内で大学生活を送る費用を年間200万円としても、70万円の余分がでる計算だ。円高によって渡航へのハードルが下がったことで、学生が留学を検討しやすくなったと考えられる。
 
 「就職に不利」「費用が高い」など、ネガティブな要素が浮き彫りになりがちだった学生の海外留学だが、企業のグローバル化と円高によって状況は変わり始めた。文部科学省や経団連も、グローバル人材の育成や支援強化に乗り出している。こうした状況の変化を受けて、留学を希望する学生は今後ますます増えるだろう。(了)

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