トップの理由

学生バイトOBの「アルムナイ・ネットワーク」は採用の“救世主”となるか

 終身雇用制の崩壊でワークスタイルが急激に変革する昨今、自社を離れた人財を貴重な人的資源として活用する「アルムナイ制度」が人事や採用のキーワードとして注目を集めている。

ヤフー、アクセンチュアも活用の「アルムナイ」とは?

 アルムナイ(alumni)はもともと大学などの“卒業生”という意味だったが、転じて企業の退職者を指す言葉としても使われている。

 一度自社を退職してしまった元社員を再雇用するため、企業が「アルムナイ制度」を立ち上げたり、大学や企業のOB・OGが自主的に集まって「アルムナイ・ネットワーク」を構築するなど、海外や外資系では一般的な企業文化だったアルムナイが、近年日本でも広がりを見せている。

 たとえば、ヤフー株式会社では退職者を対象とした非公開のFacebookグループ『モトヤフ』を2017年に設立。『アクセンチュア・アルムナイ・ネットワーク』を自社で保有するアクセンチュアでは、再入社を希望するアルムナイに対し、採用チームによるサポートなども行っているようだ。

 実は、この「アルムナイ制度」を大学生のアルバイト講師に適用した企業がある。オリコン顧客満足度ランキング「高校受験 個別指導塾 首都圏」第1位を6年連続で獲得する株式会社東京個別指導学院だ。

現役大学生講師の支援と業界・世代を超えた交流がメイン

アルムナイ会合の様子(提供:東京個別指導学院)

アルムナイ会合の様子(提供:東京個別指導学院)

 2019年3月10日時点で、全国248教室を展開する同社の講師は1万人強。そのうちの約85%が大学生のアルバイトだ。大学生アルバイトのアルムナイ制度について、同代表取締役社長の齋藤氏は以下のように語る。

 「大学卒業を機に、毎年1500名ほどが塾講師のアルバイトを卒業していきますが、弊社の教育理念に共感し、その思いを具現化して生徒たちを導き続けてくれた彼らは私たちにとって大切な存在。卒業後も心の繋がりを継続し良い関係性でありたいという願いから、講師卒業生が集うプラットフォームとして『パートナーズ・アルムナイ組織』を昨年立ち上げました」(東京個別指導学院 代表取締役社長 齋藤勝己氏/以下同)

 組織の活動内容はアルムナイ自身が議論して決めているという。活動内容は大きく分けてふたつあり、ひとつはアルムナイによる現役講師の支援だ。

 「弊社ではこれまでも大学生講師に向けた就職活動支援のセミナーや面接トレーニングなどのバックアップを行ってきましたが、アルムナイを迎えることで今後さらに活発に提供していきます」

アルムナイによる業界セミナー検討の様子(提供:東京個別指導学院)

アルムナイによる業界セミナー検討の様子(提供:東京個別指導学院)

 もうひとつの活動は、業界や世代を超えたアルムナイの交流の機会を提供すること。

 「教室は違っても、同じ志を持って働いてきた仲間として共感できることは多いはず。さまざまな分野で活躍するアルムナイ同士の交流を通して、ビジネスの上でのシナジーが生まれることもあるでしょう。何より未来予測が難しい現代において、学び続ける機会があることは一生ものの財産になるはずです」

パートナーズ・アルムナイ組織のイメージ(提供:東京個別指導学院)

パートナーズ・アルムナイ組織のイメージ(提供:東京個別指導学院)

若者のマインドにもフィット 感謝の一言が大きな価値に

 さらに、『パートナーズ・アルムナイ組織』の活動は、現代の若者のマインドにもフィットしたものであると齋藤社長は語る。

 「大学生の講師たちと交流していて感じるのは、人や社会に対して貢献することに大きなバリューを感じる若者が増えているということです。講師であれば生徒のために、アルムナイであれば後輩のために、何かしてあげたことで掛けられる『ありがとう』の一言は、彼らにとって大きな価値なんですね。弊社の教室はそうしたマインドを持った若者が力を発揮できる場でありたいと思っています。さらに、卒業後にもそんな仲間たちと高め合える場があれば素晴らしいと思いませんか」

年1000名の講師増 働く側の満足度が人財獲得に寄与か

 現役講師や卒業生にとっては、大きな実りがありそうな『パートナーズ・アルムナイ組織』。では一方で、組織を運営することで会社側にはどのようなメリットがあるのだろうか。

 「現代の企業経営は利益を追い求めるばかりでなく、働く人の働きがいを育むことがとても重要なテーマです。その企業で働くことの意義ややりがいを自ら見出したときに、人は成長します。人の成長が企業の成長にも繋がっていくというのが弊社の考え方です」

 アルバイト採用難が叫ばれる昨今だが、同社では年間約1000名ずつの講師増となっているという。

 「一般のアルバイト応募はもちろんですが、弊社の教室で学んだ生徒さんが大学生になり講師として応募してくださったり、講師からの紹介で大学の同期や後輩が講師として入ってきてくれるケースも多いですね。大学卒業後、社員として入社を希望する現役講師もたくさんいます」

 大学生のアルバイト募集は口コミの力も大きく作用し、働く側の満足度が安定的な人財確保の決め手となることが多い。こうした取り組みは継続的な雇用を後押しし、ひいてはさらなる講師の質向上にも繋がっていくだろう。

 同社の『パートナーズ・アルムナイ組織』はまだ始まったばかり。今後、アルムナイ・ネットワークがどのような発展を見せるのか、注目したい。

(文/児玉澄子)

【調査概要】
調査時期:2018/07/18〜2018/07/30
調査対象:合計3461名(高校受験を対象とする個別指導塾に通年通学している(したことのある)現役中学生/高校生の保護者)
調査地域:首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)
調査方法:インターネット調査 (オリコン顧客満足度調べ)

プロフィール
株式会社東京個別指導学院 代表取締役社長 齋藤 勝己

1964年埼玉県生まれ。1987年中央大学卒業。2014年株式会社東京個別指導学院代表取締役社長に就任。経済同友会会員。日本ホスピタリティ推進協会 理事 兼 教育産業委員長。中央大学南甲倶楽部 理事。