中学受験塾選び、イマドキの親はここを見る 「合格実績」だけで、親たちは満足していない

記事は2016年1月6日に東洋経済オンラインに掲載されたものです。
  • 【画像】中学受験用テキスト

 学習塾業界が慌ただしい。昨年8月の、通信教育「Z会」を運営する増進会出版社(静岡県)による、業界最大手・栄光ホールディングスの買収劇は世間を驚かせた。少子化のいま、受験生の減少は現実問題としてたちはだかり、どこも生き残りに必死だ。

 ただ、悲観することばかりではない。1人の子どもに注がれる教育費は増加傾向にある。教育熱心な親たちは今、どんな目線で学習塾を選んでいるのか。オリコン日本顧客満足度調査が先ごろ発表した、中学受験塾に関する調査結果を紐解きたい。

 調査対象は首都圏、東海、近畿の中学受験向け集団塾(89社)と、首都圏にある中学受験向け個別指導塾(43社)の計132社。アンケート対象者は27歳以上の女性、29歳以上の男性で、中学受験塾・予備校に通年通学している現役小学生、または通年通学したことのある中学生の保護者1万1850人だ。

 彼らに授業内容、受験結果、受講料などに関する9項目31問の満足度を聞き、それぞれ100点満点で評価してもらった。多くのユーザーが重視する項目で評価が高い場合は、ポイントに反映する仕組みになっている(調査の詳細はこちら)。
 まず調査データから読み取れるのは、集団塾と個別塾とは評価の重点が異なる点だ。集団塾に通わせる親が何より重視するのは「成績向上」(22%、首都圏の場合)という目に見える成果だが、マンツーマンや少人数で授業を行う個別塾は「成績向上」(19%)よりも「講師の質」(24%)に対する期待が強い。

  • 【画像】中学受験集団塾の顧客満足度ランキング

 ただ、2番目に重視する項目は集団塾も個別塾も共通しており、交通の便や塾周辺環境といった「通いやすさ・治安」が約20%を占めている。この傾向は、直近4年間を通じて変化していない。

 この前提をもとに、集団塾の満足度ランキング結果を見てみよう。首都圏トップは、サピックス。2015年入試での難関御三家(男子=開成・麻布・武蔵、女子=桜蔭・女子学院・雙葉)の合格実績は計909人と圧倒的だ。

 サピックスは「難関校に挑む成績上位層の子どもでない場合、カリキュラムについて行けなくなる落とし穴もある」(受験アナリスト)という声が聞かれるものの、最重要項目である「成績向上」への満足度は78.42点と、2位(啓進塾、74.29点)に4ポイント余りの差を付けている。

 「レベルの高い生徒が集まり、切磋琢磨するのによい環境」(50代男性)「できる子が集まっており、刺激になる」(40代女性)と評価が高く、昨年に続き満足度トップに輝いた。
 満足度2位の啓進塾(総合72.06点)も、「講師の質」(77.12点)ではサピックス(75.66点)をしのぐ高評価を獲得。「子どもの習熟度に合わせたきめ細かい指導(40代女性)への信頼は厚い。

 ただ啓進塾は、横浜市内に4校のみを展開する地域密着型の塾。中位層も含め間口が広いのは3位以下の大手になり、日能研(総合71.72点)、栄光ゼミナール(71.37点)、早稲田アカデミー(71.33点)、四谷大塚(71.72点)、CG啓名館(70.19点)などが続く。昨年の調査結果と比べ順位は変動しているが、僅差に変わりはない。

 なお、親が2番目に重視する「通いやすさ・治安」は、栄光ゼミナール(78.28点)と早稲田アカデミー(77.25点)の評価が特に高かった。

 次に、近畿圏の集団塾ランキングを見てみよう。首位は昨年の3位から躍進した希学園(総合78.76点)。続いて5位までを、能開センター(78.40点)、進学館(77.76点)、進学教室浜学園(75.39点)、日能研(74.19点)が占めている。

 「難関国立・私立中学受験専門」をうたい、関西で10校を展開する希学園は「成績向上」(80.55点)と「講師の質」(81.67点)を含む5項目で満足度首位を獲得。「休日や補習の時間など、トータルで満足いく内容」(50代女性)「目標校への受験カリキュラムが整っている」(40代女性)といった声を集めた。

  • 【画像】中学受験個別指導塾の顧客満足度ランキング

 続いて、個別塾のランキングを見てみよう。昨年と同様、満足度トップは日能研系のユリウス(72.89点)。主要3項目を含む6項目が1位だった。

 先に触れたが、個別塾に対して最も期待されるのは「講師の質」。この点でユリウスは、日能研を卒業した現役大学生・院生が指導する仕組みを取っており、「本人の目標となる大学生に指導してもらえた」(40代男性)など、学習アドバイス全般への信頼が厚い。「日能研のテキスト、模試、情報などが使える」(50代男性)ことも高い評価につながっているようだ。

 2〜4位は、栄光ゼミナール(総合71.28点)、明光義塾(69.59点)、東京個別指導学院(ベネッセグループ、69.15点)が僅差で並び、5位にはスクールIE(64.35点)が続いた。

 満足度を項目別に見ると、栄光ゼミナールは「適切な受講料」(66.63点)と「カリキュラムの充実度」(67.58点)が満足度1位。「成績が上がって安定した」(30代女性)、「塾長の熱意がいい意味で伝わっていた」(50代男性)とのコメントが寄せられている。

 一方の東京個別指導学院は、「子どもが喜んで通える環境作りが上手」(40代男性)、「教室は清潔で雰囲気が良かった」(40代女性)など、「教室の設備・雰囲気」(72.54点)への満足度が最も高かった。

 総合的にはユリウスへの評価が高いものの、子どもの性格や親のニーズを明確化したうえで、それに合致する塾を選ぶことが肝心と言えるだろう。
 いま、学習塾業界は大再編時代に突入している。代々木ゼミナールが難関中高受験に強みをもつサピックスを、ベネッセHDは関西で学習塾を手掛けるアップを、そして学研ホールディングスは九州などで学習塾を手掛ける全教研を、それぞれ傘下に収めている。
 そして冒頭に紹介した、「Z会」の増進会出版社による栄光ホールディングスの買収。いずれのケースも、狙いは中学から大学まですべての受験ビジネスを手掛ける「垂直展開」だ。

 確かにいま、全国で公立中高一貫校の新設が相次いでいる。一方で文科省によると、大学・短大の受験者はピーク時に比べ4割も減ったという。受験の川上となる中学受験を制する学習塾こそが今後の業界を制し、親たちの信頼を勝ち得ていくのかもしれない。
オリコン日本顧客満足度ランキングの調査方法について

当サイトで公開されている情報(文字、写真、イラスト、画像データ等)及びこれらの配置・編集および構造などについての著作権は株式会社oricon MEに帰属しております。これらの情報を権利者の許可なく無断転載・複製などの二次利用を行うことは固く禁じております。