英語のスペシャリスト湯川れい子インタビュー#2

〜初心者が英語を学ぶコツ編〜

  • 画像/オレンジショール

 英会話スクール、オンライン、アプリ……。英語を学ぶツールはあふれ返っているが、「英語が話せる」と自信を持って言える人は増えているだろうか。中学生の頃、ラジオの米軍放送で流れたアメリカの音楽に魅了され、独学で英語を学んだという音楽評論家の湯川れい子氏。「(英語を学ぶ時は)自分は何に興味があるのかが一番重要」と話す同氏の英語学習法と、「初心者が英語を学ぶコツ」を教えてもらった。 

英語は徹底的に耳で覚える

――湯川さんはいつごろから英語に興味を持ち、触れるようになりましたか?

湯川: 中学1〜2年生ごろ、ちょっとしたきっかけで毎日、ラジオの米軍放送(現在のAFN)を聴き始めました。次第に「あ、これ好きだな!」と思う音楽が流れてくると、「誰の何という歌なんだろう」と興味を持つようになり、「ちゃんと聴き取りたい」という気持ちが強くなりましたね。高校時代は、併せてNHKのラジオ講座も、毎日夕方に聴いていました。すると、番組の中で「生きた英語を習得する早道は、アメリカの映画を見ること。それもしゃれた会話が早口で繰り広げられる、N.Y.のような大都会を舞台にしたコメディーがよい」とアドバイスがあったんです。

――でも、今のように自宅で気軽に海外ドラマを見られる時代ではないですよね?

湯川: もちろんです。それで、たまたま東宝東和が募集していたイギリス映画『ホフマン物語』のキャンペーン・ガールに応募。18歳以上が条件でしたが年齢をごまかして(笑)、合格。2週間ほど、映画のお仕事をしました。そのときに知り合った宣伝部長の方が「そんなに外国映画が好きならば使いなさい」と映画の招待券をたくさん譲ってくださったのです。その後は招待券をフル活用。「学校へ行ってきます」と家を出て映画館へ。当時の映画館は入れ替え制ではなかったので、一度入館できれば1日中見ていられたのです。同じ映画を1回目は字幕を見ながら、2回目はなるべく字幕を見ないで、次の回までの間にお弁当を食べて、3回目は字幕を見ず、4回目は分からないところだけ字幕を見るという具合に繰り返し見ました。しかも、4回見て帰宅すると学校帰りの時刻ぐらいだったので、ちょうどよかった(笑)。

――(笑)。徹底的に耳で覚える勉強法ですね。

湯川: はい。4回も見ると、短い会話は頭に入るので日常会話は覚えられました。ステーキの焼き方、デートの誘われ方や断り方、男性を振るときの言葉とか。最初に覚えるのは下品な言葉や、悪口や、セクシャルな会話ばかり。やっぱり楽しいですから!

失敗を恐れないことが大切

――外国の方と会話する機会はなかったのでしょうか?

湯川: それは高校を卒業してからですね。東京・有楽町のジャズの店に通うようになって、外国の方とも触れ合い、多少の会話もできるようになりました。また、短い期間ですが貿易会社で仕事をしたり、米軍キャンプにコネのある人に、電話でレコードを買って欲しいとお願いしたりすることで会話する機会を持てました。

――実際に英語で会話するようになり、失敗もありましたか?

湯川: 失敗なんて、この仕事を始めてからだってたくさんありますよ! 失敗したことが恥ずかしいといちいち穴を掘っていたら、ブラジルまで出てしまいます(笑)。

――ぜひ、伺いたいです(笑)。

湯川: 25歳で初めて来日した海外アーティストの取材をしましたが、実家に下宿していた方に手伝ってもらって、英語で質問を用意して臨みました。当日は相手が沈黙すると次の質問に移ったんですが、後で録音を聴いてみると、沈黙は相手が次の言葉を考えている最中だったんですね。必死で気が回らなかったとはいえ、相手の言葉を遮っていたのですから「なんて申し訳ないことをしたのだろう」と、忘れられない大失敗の一つです。また、私は全て独学で、きちんと学んでいませんから、外国人から面白がられてずいぶん変な英語も教えられました。Fワードを気付かないで使ったことで、その場をフリーズさせたこともあります(笑)。そんな失敗は枚挙にいとまがないですよ。

どんな英語を話したいかという目標を持つ

――1人で学ぶことと、実際に会話することではやはり違う?

湯川: 英語のことわざに「必要は発明の母(Necessity is the mother of invention)」という言葉がありますが、当時、痛感したのは、「必要は会話の母(Necessity is the mother of conversation」だということ。必要に迫られるからこそ、人は会話ができるようになる。私は25歳で初めてアメリカに一人で取材に行ったのですが、そのときは日々、ものすごい勢いで英語が上達しました。ハワイ、L.A.、N.Y.と回り、アーティストにインタビューをしたり、ステージや映画の撮影現場を回ったり、突然のオファーでアメリカのテレビ番組に出演したことも(笑)。それこそ、表情、身振り手振りを総動員して、必死に会話をしていましたから。そうでないと、仕事はもちろん、食べることも泊まることもできませんから。

――生きていかなければいけませんからね。

湯川: そうですね。N.Y.で出演したテレビ番組『What’s My Line?』には、500ドルの出演料と、L.A.への往復チケットや滞在費も負担してくれるという条件に引かれて、二つ返事で「出ます!!」と飛び込んだのですが(笑)、今、当時の映像を見ると、英語力は顔が赤くなるレベルで。でも、見事にエレガントに受け答えする自分を見て、「すごいな、私!」と思いましたね。今だったら、逆に怖くてとても出演したりできません(笑)。

――最後に、今、英語を勉強する読者にアドバイスすることは?

湯川: 今は英語を学ぶためのツールが世にあふれていますが、結局、使いこなせるか、吸収できるかはその人の欲求の度合いで決まります。ですから、自分は何に興味があるのかが一番重要ですね。音楽かスポーツかビジネスなのか。どんな仕事で、どんなレベルの、どんな英語を話せるようになりたいのか。夢やゴールを具体的に描いて、そこへ向かう強い気持ちを持つことが大切だと思います。

――では、これまで湯川さんが英語を学び続けた情熱の源泉は?

湯川: 中学時代と変わりませんよ。素敵な歌に出会うと、「何を歌っているのか知りたい!そして私も歌ってみたい」と湧き上がる想い。やはり、そこだと思います。


湯川れい子
1960年、ジャズ評論家としてデビュー。早くからエルヴィス・プレスリーやビートルズを日本に広めるなど、独自の視点によるポップスの評論・解説を手がけ、音楽評論家として活躍。ディズニーのアニメーション映画『美女と野獣』『アラジン』などの訳詞も手掛ける。また、作詞家としては『ランナウェイ』『六本木心中』『恋におちて』などが大ヒット。最近は、世界的な人気を誇るアメリカの歌手、キャロル・キングの半生を描き、ブロードウェイで人気を博したミュージカル『ビューティフル』の訳詞を担当。主演のキャロル役は、水樹奈々と平原綾香がダブルキャストで務める。7月26日(水)〜8月26日(土)に帝国劇場で上演。
【文/長島恭子 校閲/磯崎恵一(株式会社ぷれす)】

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